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日銀の苦悩~やり損だった金融緩和の強化

先週末、日銀はほぼ満額回答と言ってもいい程の金融緩和の強化を決定した。
発表後しばらくは円安株高を誘導することに成功したが、その効果は数時間ももたず東京引けの時点で日経平均は大幅下落、ドル円もその日のロンドン時間に80円台前半まで下落し、週明け月曜日のNY時間では久方ぶりに79円台に突入してしまった。

白川総裁は会見の中で「金融緩和のコストと効果」の関係について触れている。
金融緩和の表向きの目的はデフレ脱却であるが、裏の目的は円安であることは周知の事実だが、この目的を考えると、コストがかかって効果は0だったと言わざるを得ない。

世界情勢のタイミングを勘案した上で金融緩和の強化の内容を眺めると、明らかに日銀のやり損であったことが窺える。また、声明文とその後開かれた白川総裁の会見内容を見ても、日銀の苦悩が浮き彫りになったと言わざるを得ない。

これらを説明する前に、まずは日銀がどんな緩和の強化をしたのかおさらいしてみよう。

・買入基金を5兆円程度増額し、65兆円程度から70兆円程度に拡大した。
・長期国債の買入を10兆円程度増額した。
・ETFの買入を2000億円程度拡大、J-REITの買入額を100億円程度拡大した。
・期間6ヶ月の資金供給オペの5兆円程度減額した。
・買入対象の長期国債の残存年限を「1年以上2年以下」から「1年以上3年以下」に長期化した。

主な変更点はこんなところだろう。

この中でサプライズだったことは、ETFとREITの買入拡大を発表したことである。
債券市場だけでなく株式市場にも注意を払ったことで、株は一時大きく上昇した。
年限の長期化や買入基金の拡大枠は市場のコンセンサス内に収まったものなので、通常であれば大きな失望もないし、むしろETF・REITの拡大を表明している分、予想より思い切ったことをやったと思う。個人的には、市場や政府からの期待に対して、満額回答に近い行動だったと評価できると考えている。

しかし、市場は結局株安円高で反応するわけなので、市場は実に冷ややかなものだ。
しかし、それは仕方がない。

仕方がないと思う理由は、緩和強化のタイミングが非常に悪いことと、声明文・白川総裁の会見から感じられる日銀の姿勢である。
今日は後者の日銀の姿勢について詳しく書いてみたいと思う。

声明文のセンテンス6において、デフレ脱却に必要な要素が書かれている。
要約すると以下の通りだ。

デフレ脱却には、高齢化や成長率の低下という長期的・構造的な課題への取り組みが不可欠。
この課題克服には、経済成長の基礎を築く必要があり、民間企業の努力が必要である。
企業の前向きな活動を支えるためには、政府が環境整備する必要がある。


このセンテンスを読む限り、日銀は既に金融緩和をやっており民間企業の前向きな活動を支えている、後は民間企業自身の努力と政府の支援が必要だ、と言っているように感じられる。

また、白川総裁の記者会見でも興味深いやり取りがあった。

記者から日銀法抵触への質問があった。
日銀の国債保有残高が日本銀行券よりも多くなるのはいつ頃か?というものである。

これに対して白川総裁は、「この年末までに銀行券を上回る状況になろう」と認めている。
日銀の国債保有残高が銀行券を上回るということは、つまり日銀が財政ファイナンスを暗に肯定していると受け取られる。

その上で白川総裁は「国債買入を金融政策の目的遂行のために行っています。(中略)最終的に日本銀行が財政ファイナンスを行わないという意思を、私も他の政策委員会メンバーも一致しています。この点は私どもを信用して頂きたい…」と発言している。

中央銀行が実質財政ファイナンスをしているのは、アメリカも同じ状況である。
今、世界中の先進国で金融緩和戦争が起こっているが、これは言い換えると中央銀行の財政ファイナンス戦争とも言える。

白川総裁もそれを理解しているのだろう。
金融緩和戦争をまた別のもので言い換えると通貨安戦争でもある。この戦争に勝つためには、中央銀行の財政ファイナンスが必要なことを白川総裁は理解している。
しかし、日本は既にGDP比200%に迫る債務を抱えており、中央銀行による財政ファイナンスのリスクが他国よりも大きいことも白川総裁は理解している。

つまり、白川総裁は「やらなければいけなこと」も「やることのリスク」も理解しているからこそ、市場から失望を誘うような態度しか示せないのだと僕は考えている。

しかし、市場は全くもってお人よしではない。
決して多くない、あともういくつかの条件が揃えば、この日銀の態度に漬け込んだ攻撃が市場から仕掛けられるだろうことを僕は想像している。

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